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東京佐川急便事件で検察の威信が、真の意味で問われたのは、暴力団ルートの公判で、政治家の実名が記載された参考人調書を朗読したことでした。概要を説明すると、1992年11月5日、暴力団ルートの第四回公判で、検察側は右翼団体「日本皇民党」総裁の大島竜aの供述調書を全面朗読しました。
この中で、1987年、竹下登内閣が誕生した際、皇民党によってくり広げられた竹下に対する“ほめ殺し攻撃≠阻止するため、自民党前副総裁の金丸信や政調会長の森喜朗ら七人の政治家が活動を中止するよう工作、その解決金として金丸は三十億円を、森は二十億円を提示したことを明らかにしたのです。
法廷で、参考人調書が政治家の実名入りで朗読されるのは、きわめて異例のことでした。ニュースはまたたく間に政界を駆けめぐり、政権発足一周年を迎えた宮沢政権に大きな衝撃を与えました。調書で名指しされた自民党の政治家は敏感に反応し、同時にその狼狽ぶりもひどかった。その様子を、1992年11月6日付朝日新聞はこう伝えています。
「調書で名前の挙がった自民党の梶山静六国会対策委員長は、国会内での否定会見のあと、記者団に『個人の名誉が大事だ。ほかのものは吹っ飛んでもかまわない』。(中略) 野党から早速、山下八洲夫(社会)、 不破哲三 (共産)、大内啓伍(民社)の各氏が質問したが、首相は準備不足もあってか、山下、不破両氏への答弁では、この件をほとんど無視しました。
三人目の大内氏になってようやく答弁をしましたが、それも『公判中であり、政府としてコメントすべきでない』。(中略) 渡辺広康被告らとの会合に同席していたとされた渡辺秀央郵政相は、国会内で質問を浴びせる記者団にむすっとした表情で黙ったまま。
『答えられないのは、やましいことを話したからか』と聞かれ、「失礼なことを言うな」と記者団をにらみつけた。寝耳に水の出来事に動揺を隠せない自民党に比べ、野党は勢いづいた。同紙はこう報じています。
「調書の内容が野党側に飛び込んで来たのは、衆院での代表質問二日目が始まる直前だった。社会党は北村哲男参院議員ら弁護士出身の若手議員三人が、佐川疑惑追及の手掛かりをつかむため裁判を傍聴していた。調書が読み上げられるや、北村氏があわてて国会に駆け戻って、山花貞夫書記長に報告。」
「公明党控室では、市川雄一書記長が通信社のファックスを大声で読み上げ、『皇民党事件で、金丸信氏三十億円、森喜朗氏二十億円で攻撃中止を要請』。開会のベルを待つ代議億円どころの話じゃないぞ』とどよめきが起きました。
記者会見に臨んだ各党は、一様に政府・自民党批判のボルテージを上げた。竹下政権の誕生に暴力団が関与した点は、予算委員会での追及の焦点と見てきただけに、『衝撃的な事実だ。ロッキード、リクルート事件をはるかに超える。真相究明は新たな段階に入った』と山花氏」
検察側が朗読した一通の供述調書は、国会での自民党野党の対決に油を注ぎ、予算委員会での恰好の追及の材料になったばかりか、さらに波紋を広げ、自民党15検察庁という構図に発展するのにさして時間はかからなかったのです。
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