|
主系列段階を終えると、星は急速にその一生の終わりに向かって突き進みます。太陽の約8倍より軽い星は、赤色巨星という低温で表面が膨張した星となり、外層の一部を放出します。その放出した外層は中心星からの放射に照らされて惑星状星雲という実に美しいガス状の天体となるといいます。ハッブル宇宙望遠鏡で撮られた画像を掲載されています。
やがてこの惑星状星雲のガスも霧散し、中心には白色矮星という、質量が太陽程度ですが大きさが地球ほどしかない、密度の高い星が残されます。不思議なことにこの星は、他の恒星のように自分の重さを支えるためにエネルギーを出し続ける必要がないのです。
その秘密は、電子の縮退圧という量子力学的なものです。エネルギー生成を必要としないので、白色矮星になってしまえばあとは単に星が冷却するとともに暗くなっていき、ひっそりと、存在し続けることになるのです。
太陽の約8倍より重い星は、中心部において水素からヘリウム、さらには炭素、酸素、ケイ素といった重い原子核の核融合が進行し、やがて核融合で生まれた鉄を成分とする中心コアができます。
鉄は、それを知らぬ人はいないほど我々にとってごく身近な元素でありますが、実は100種類以上存在するあまたの元素の中でも特別な存在であることはあまり知られていないのです。鉄の原子核は最も強く結合した安定な原子核です。
一般にエネルギーの高い状態は物理的に不安定で、より安定でエネルギーの低い状態に移ると同時に余分なエネルギーを外界に捨てます。鉄より軽い元素は合体(核融合)してより重い原子核になることでエネルギーを出します。
一方で、鉄より重いウランやプルトニウムは、原子力発電所で起きているように、より軽い元素に分裂(核分裂)をすることでエネルギーを出します。そして、鉄より安定な元素が存在しないため、鉄はもはや原子核反応でエネルギーを取り出す事ができない燃えかすです。
間もなく最期を迎える大質量星の中心にできた鉄コアは、燃え尽きた真っ白な灰になります。だが、自然界にはさらに効率の高いエネルギー発生メカニズムがあります。重力エネルギーです。核反応で取り出せるエネルギーは、核反応を起こす物質の静止質量エネルギーの1パーセントに満たないです。
しかし重力エネルギーは、ブラックホールになるほど高密度になるまで物質が落ち込んだ場合は、静止質量エネルギーに匹敵するエネルギーを生み出すことが可能です。燃え尽きたかに思われた大質量星は、このエネルギーを使って超新星と呼ばれる華々しい爆発でその最期を飾ることになるのです。
鉄コアが太陽質量程度にまで成長すると、重力に対して支えきれなくなり、やがて潰れてしまいます。太陽質量の場合、半径3キロメートル以下のサイズにまで潰れてしまうとブラックホールになるわけですが、多くの場合はその一歩手前、半径約10キロメートルで重力崩壊が止まり、中性子星と呼ばれる星が誕生するのです。
この星が重力に対して持ちこたえられる密度は、1立方センチメートルに1兆キログラムという超高密度にあります。この密度は実は、陽子や中性子で構成される原子核の中の密度に近いのです。このような状態では、原子核の中で働いている核力によって、中性子星はその強大な重力に逆らって存在できるのです。
いわば中性子星は、一つの巨大な原子核と言ってよいでしょう。なお中性子星内部では、陽子と電子が合体して中性子になった方がエネルギー的に安定します。そのため陽子や電子はほとんどなく、中性子が主成分となっています。中性子星と呼ばれる所以でしょう。
さて鉄コアが潰れて中性子星になると、巨大な重力エネルギーが解放されます。どれくらい巨大かというと、例えば太陽がその一生(100億年)のうちに放射するエネルギーの300倍と言えば実感が湧くだろうか? この巨大なエネルギーを使って、中心部を除く外側の物質を吹き飛ばしてしまうのです。これが超新星爆発です。
といっても、爆発の運動エネルギーに転化するのは重力エネルギーのわずか1パーセント程度に過ぎません。それでも、太陽質量の10倍もの物質が秒速数千キロメートルで吹き飛んでいくのです。そして中心には中性子星が残されます。
その質量は太陽の1〜2倍といったところです。この中性子星は1兆ガウスを超える強力な磁場を持ち、1秒間に数十回も回転します。それによって生じる周期的なパルスが電波やX線で観測されていて、パルサーと呼ばれています。
ただし原子核力で支えることができる星の総質量には上限があり、中心に残った星が太陽のおよそ2〜3倍を超える場合は、さらに潰れてブラックホールになると考えられています。元の星の質量で言えば、太陽の数十倍を超えるような超大質量星が、ブラックホールの生成源と考えられているのです。
超新星爆発で吹き飛んだ物質は放射性物質を含み、それが原子核崩壊を起こして熱を出すことで輝き、超新星として観測されます。その明るさは太陽の100億倍という、一つの銀河に匹敵するものであり、それが1ヵ月以上続くのです。
それでも、この光として放出されるエネルギーは爆発エネルギーの1パーセント、重力エネルギーのわずか1万分の1に過ぎません。そしてこの吹き飛んだ物質は、新たに核融合で生成された炭素や酸素、鉄などの重元素を豊富に含んでいます。これがやがて星間ガスに溶け込んで、次の世代の星に取り込まれ、やがては地球型惑星や我々の体の原料となるのです。
|
|