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新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、それにともなうロックダウンの生活で、いままでよりもウェブに頼ることになった人は多かったと思います。このようなウェブのツールがあってよかったと喜ぶべきではないのでしょうか。
新しいテクノロジーに対する強い反発は2016年から始まっていて、そのなかで新型コロナの席巻がありました。2016年は、虚偽の情報がSNSで拡散され、EU離脱の是非を問う英国の国民投票や米国の大統領選を混乱させた年でした。
2018年にケンブリッジ・アナリティカ社のスキャンダルが発覚し、この会社が数百万人分のフェイスブックのユーザーのデータを使って、EU離脱やトランプへの投票を呼びかけるメッセージを送っていたことがわかりました。
世論がこの事件に反応し、巨大IT企業に対し不信と怒りの念を抱いたのは当然のことでした。そんな状況だったからこそ、巨大IT企業の経営者は、2020年の春に導入されたソーシャル・ディスタンスの措置を絶好のチャンスと見ました。
全員が同じようなことを言い出しました。「私たちはみなさんの味方であり、みなさんを救うことができます。みなさんが必要とするものは何でもアマゾンが送り届けます。グーグルがオンラインで学校を再現します。ズームなら、同僚と会議を開けます。フェイスブックで家族や友人とコンタクトをとりましょう」
しかし、こうした発言に説得力があったとはいえません。EUは、いまもIT業界に規制を加えたほうがいいという信念を深く持ったままです。米国の連邦議会でも、この1年だけで、オンライン上のプライバシーの保護やマイクロターゲティング広告 (個人の情報を収集して効果的に行う広告)に関する法案が26案も出されました。
チューブから出した歯磨き粉と同じで、こうした動きを元に戻すことはもはやできません。フェイスブックは最近、自分たちの事業の点検をしています。フェイスブック監督委員会も設立され、不適切なコンテンツの監視に関する判断を担うことになっています。
フェイスブックはいろいろしていますが、どれも単なる広報戦略に過ぎません。たとえば2018年には、外部の専門家に依頼して公民権に関する監査を実施しています。監査を主導したのは高名な弁護士のローラ・マーフィーで、公民権問題の専門家です。
その最終報告書が2020年7月に公表されたのですが、フェイスブックの問題点がすべて見事に検討されている報告書でした。ところが、この報告書は何の効力も持たなかったのです。フェイスブックのナンバーツーのシェリル・サンドバーグが「学ぶべきことがいっぱいです」と言って終わりにしてしまいました。
監督委員会も、設立案が最初に出たのが2019年1月なのです。それでようやく設立されました。「ガンガン動いてドンドン壊せ」をモットーにする会社としては、ずいぶん悠長ではないでしょうか。
近年の米国史では最も重要な大統領選を迎えようとしている時期の動きとしては、あまりにものんびりとしていました。巨大IT企業が作っているのはドーナツの類ではないのです。社会の方向を決めるものを作っているのですから、プロダクトの品質には責任を持たなければいけないと思います。
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