違星北斗には名前が3つある。
戸籍上は「瀧次郎」だが、本来は「竹次郎」で、代書屋が聞き間違えたまま、登録してしまったのだ。
(現代ではそうでもないかもしれないが、余市の方言は「イ」音と「エ」音の混同というのがあるようで、それは古老の方と話していても感じたし、北斗自身もよくイ音とエ音の書き違えている)。
で、彼は和人の前では「瀧次郎」、家族や、コタンの人々からは「竹次郎」、「タケ」と呼ばれていた。
彼の父や祖父の時代には、和人名とアイヌ名の両方を持っていたが、さすがに北斗の世代の余市ではそういうことも少なかったようだ。 ただ、図らずしも、北斗の中には和人社会での名前「瀧次郎」と、アイヌ社会での「タケ」が同居することになった。 一つの体に二つの名前。 一つの言葉に多くの意味。
多くのアイヌと同様、彼は和人社会とアイヌ社会という二つの社会で、多面性を持たざるをえなかったし、彼の場合はそれを名前によって使い分けざるを得なかった。
後年、彼は北斗と号することになる。 その引き裂かれた二つの名前を統合したのだ。
彼はまた、当時蔑称的に用いられていたアイヌという言葉に、新しく良い概念を込めようとした。我アイヌ、何を恥じることがあろうかと。
言葉の意味は、時代によって変わっていく。 また、人為的に変えられる。 のちに言葉を武器に戦っていくのには、この三つの名前を持つことと無関係ではないと思う。
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管理人 ++.. 2011/02/08(火) 11:11 [531] |
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