【FGP暗号とその仲間たち】 FGP(Fairy Good Privacy)暗号のすすめ 任意長自由書式文字列向け転置式暗号の紹介 乱数表のような特別な準備が要らず、鉛筆一本ですぐ解け、あと原稿用紙か方眼紙ぐらいあれば作れるのに、仮名文字に英字・数字さらには漢字・ギリシャ文字・各種記号と豊富な文字種が使えるという、簡単便利な“星形暗号”と、その仲間たちを紹介します。 〔“スキュタレー暗号”について〕 予備知識としての古典的かつ有名な転置式暗号 鉛筆のような六角柱と、その側面の一つとほぼ同じ幅の帯があって、帯にはそれを正方形の升目の連なりと見立てた文字の大きさで、次の47文字を縦書きしているものとします。 (この文面では、説明文の都合上、横書きになっている) いりれゐこみろぬそのえしはるつおてゑにをねくあひ ほわなやさもへからまきせとよむけゆすちたうふめ そのまま縦に読むと意味不明ですが、帯を六角柱に巻き付けていき、ただし、重ならないように一周ごと右に帯の幅ぶんずらしてやると、次のようになります。 い ろ は に ほ へ と ち ← 最初の面 り ぬ る を わ か よ た ← 2番目の面 れ そ つ ね な ら む う ← 3番目の面 ゐ の お く や ま け ふ ← 4番目の面 こ え て あ さ き ゆ め ← 5番目の面 み し ゑ ひ も せ す ← 6番目の面 これを、各面ごと横書きされたものとして順に読んでみると、末尾の‘ん’又は‘京’の無い、意味のある「いろは歌47文字」が現れます。 これは、古代ギリシャのスパルタで使われたという“スキュタレー暗号”で、文章の各文字を並べ替えて元の平文(ヒラブン) を暗号化する転置式暗号の代表です。 なお、この暗号文が良い例なのですが、一周分の文字数kの倍数から1減じた数と暗号文の文字数nが同じ場合、暗号文の書かれた帯の末尾と先頭をつないで襷(たすき)状にして、文頭の文字を最初に拾い、それからk文字めごとに拾っていっても解読できます。 次の“星形暗号”は、“スキュタレー暗号”のこんな特殊な場合から昇華させて、より簡単で柔軟性のある新たな形にまとめたものとも言えるでしょう。 〔“星形暗号”について〕 (ホシガタ・アンゴウ) 愛称“フェアリー・グッド・プライバシー”(FGP)と呼んでね 正五角形は、その対角線を順にたどって一筆書きすると、星形に全頂点を一巡します。同様に、暗号文の文字が環状に並んでいるものとみなし、文頭から数え始めて、鍵数kに従ってk文字毎に文字を拾っていき、文末に達すると文頭に戻り、引き続き数えては拾って並べていくと、解読文(平文 ヒラブン)が得られる暗号です。 例文として、全7文字・鍵数k=3の場合の暗号文と解読文を記しておきます。 暗号文 : ほはいへにろと → 解読文(平文) : いろはにほへと 鍵数k=7ぐらいまでなら、目を凝らして文字を追うだけでも読み解けてしまいます。それぐらい、お伽噺のように可愛くて、すぐ解けてしまう、華奢な、ちょっとした暗号なので、愛称をフェアリー・グッド・プライバシー(FGP)としたいと思います。わかりやすくて、使い勝手が良いのに、意外に知られていない暗号です。 なお、自明なことですが、鍵数kが全文の文字数nより大きいと、kをnで割った剰余を指定しても同じです。従って、0より大きくてnより小さく、nと互いに素な数、つまり最大公約数が1の自然数が有意な鍵数です。そして、k=1の場合は元の平文と同じ暗号文が得られますし、k=(n−1)の場合は平文を逆順にした暗号文が得られます。 また、“スキュタレー暗号”風に、文頭の文字から拾い初めるのも考えてみました。すると、規則が一つ増えます。さらに、特に日本語では、暗号文が短いと、鍵数が未知でも冒頭一文字が判れば、自然に読み解ける場合さえあるのです。あんまりでしょう。 〔“継子立て暗号”について〕 (ママコダテ・アンゴウ) 全文の文字が環状に並んでいるものとみなして、「椅子取りゲーム」に似た操作をする暗号です。つまり、文頭を数え始めの文字とし、鍵数kを使って、暗号文の文頭からk文字毎に文字を拾っていき、1度拾った文字は暗号文からはずして2度と使わず、暗号文末尾に達すると文頭に戻り、引き続き残りの文字列に同じ手順を踏む。これを繰り返して、拾った順に文字を並べると、解読文(平文 ヒラブン)が得られる暗号です。 例文として、平文全7文字・鍵数k=3の場合の暗号文と解読文を記しておきます。 暗号文 : へはいとほろに → 解読文(平文) : いろはにほへと 前項“星形暗号”との違いは、全ての文字を常に数え挙げの対象とするかどうかという一点です。“継子立て暗号”では、使った文字は、どんどん操作の対象からはずしていきます。ゆえに、“継子立て暗号”では、鍵数kが全文の文字数nに関わり無く、0より大きい自然数が選べます。ただ、k=1の場合は元の平文と暗号文が同じですし、面白いことに、n以下の全ての数の(最小)公倍数に1を加えた数が鍵数kの場合も同様です。 〔“椅子取り暗号”について〕 全文の文字が環状に並んでいるものとみなし、文字列に「椅子取りゲーム」をひとりでするような暗号です。「椅子取りゲーム」では、音楽にあわせて環状に並んだ椅子の周囲を歩き、音楽が終わると着席しますが、その長さは毎回変わるので、乱数と同じです。 まず、前もって最大値m以下0≦kn≦m なる自然数系列の、適当な乱数表か乱数生成プログラムを用意しておき、順に得られる乱数の数列から鍵数k1,k2,k3… とします。そして、文頭を数え始めの文字として鍵数kn を使い、暗号文の文頭からkn 文字とばして次の文字を拾っていき、1度拾った文字は暗号文からはずして2度と使いません。使う鍵数kn は、暗号文から文字を拾うごとに、数列からk1,k2,k3… と次へ進んでいきます。暗号文末尾に達すると文頭に戻り、引き続き残りの文字列に同じ手順を踏む。これを繰り返して、拾った順に文字を並べると、解読文(平文)が得られる暗号です。 ただ、暗号文の文字数より乱数表の数列の個数が少ない場合は、巡回して乱数表から取り出すようにすべきでしょう。(本格的な暗号強度をめざしてみました) 例文として、平文全7文字の暗号文と解読用乱数表による解読文を記しておきます。 暗号文 : にとへいはろほ 乱数表 : 3,1,4,1,5,9,2,6,5,3,5 → 解読文(平文) : いろはにほへと (乱数表に円周率の各桁の数字を使用) 前項“継子立て暗号”との違いは、文字の数え挙げ方が固定長でなく不定長であり、拾う文字自体は数え挙げの対象とせず、文字間の文字数を鍵数kn の数列とすることで、それに0を許すということです。 (円周率πとか簡単な数表が使えます) 〔これらの暗号文作成方法〕 まず、原稿用紙か方眼紙を用意して、元の平文を升目に書き込み、平文の欄とします。次に、その平文の文字数ぶんの升目を別に用意し、暗号文の欄とします。そして、鍵数を決めます。それから、平文の欄から1文字ずつ文字を取り出し、暗号文の欄へ文字を拾っていくのと同じ順序で埋めていきます。埋め終わると、暗号文の完成です。 〔これらの暗号法について〕 これは、朝日新聞'09/04/18 土曜別刷りのパズル「迷路」に面白い「解き方」をみつけた時、友人に知らせる時に思いついた“継子立て暗号”が始まりです。わざわざ別便の手紙で知らせる程でもないけれど、ちっとは友人に悩んで貰ってから「解き方」を知って欲しい。それで、それを一枚の紙に「問題」と一緒にして、ただし、すぐには読み解けないが、簡単に判る程度の「暗号」にしようとしたのです。 それは、うまい「解き方」を考えるよりも、うまい暗号にする方が難しかった。暗号表とか特別な仕掛けを必要とせず、解き方と鍵数さえわかれば鉛筆一本で誰でも簡単に解けて、仮名・漢字・英字・数字・各種記号と文字種も豊富に使える“継子立て暗号”を、数学ゲーム“継子立て”から考案して、プログラムするのにほぼ一日かかりました。 この暗号の長所をもう一つ挙げると、こうした文字の順序を並べ替えて作る転置式暗号は、升目10×10の正方形といった固定書式がよく知られているのですが、これは自由書式だし、何より暗号化する前の平文の文字数(長さ)すら随意です。従って、書式を整える為の冗長作成といった苦労も不要です。暗号の仕組みとは別に、鍵数を知る必要があるのも長所といえるでしょう。しかも、平文の文字数とは無関係に鍵数を決められ、効率を無視すれば、鍵数に平文の文字数より遥かに大きな数を指定することさえ可能です。 この“継子立て暗号”には、暗号文(平文と言い換えても同じ)が短いと容易に解読できるという転置式暗号特有の性質があります。そうした暗号強度(暗号として解読の難解さ)は別にして、最大の難点は、実時間(リアルタイム)処理に向かず、一括(バッチ)処理向きなことだけでしょう。 その暗号強度の点についてですが、これ単独ではたいしたことなくとも、現在主流の換字式暗号と組み合わせて用いれば、暗号強度を飛躍的に増大させられるのではないでしょうか。 つまり、実時間処理に向いていることもあり、一定の法則に従って、アルファベット順や五十音表をずらしたり、文字コード番号を変換したりする換字式暗号が現在は主流ですが、そうした方式とは全く異なる暗号方式なので、組み合わせると、かつてADFGVX暗号がそう思われたよりも遥かに、飛躍的に難解な暗号になると思うのです。 また、そのままでは実時間処理に向かないかのように思われる点も、全文単位の処理でなく、文単位や段落単位とか512文字単位といった、適当な処理単位に区切ることにより、実用性を得られるのではないでしょうか。 課題としては、適当な一方向関数(落とし戸関数)を用意するとかして、うまく公開鍵暗号法として成り立つかという点でしょう。 こんな風に考えながら、時々パズル「迷路」についてまとめた一文をあちこちに配っていると、自分で何度か暗号作成と解読をすることがあったのです。すると、そのうち、この“継子立て暗号”では一度使った文字をはずしながら文字を拾って、文字列を組み立て直していますが、解読時にはずす操作が煩わしくなりました。それで、その操作無しに鍵数kで文字を拾って解読文を得ることができないかと思うようになったのです。そこに、頂点5の星形は1種類で頂点7の星形は2種類ですが、一筆書きとして頂点のたどり方はそれぞれ正順逆順の倍があるという話なんかが結びつくことで、昨年(平成22年)11月末頃“星形暗号”を考えつきました。 ただ、この方式において鍵数kとして使えるのは、全文の文字数nより小さく、nと素な数のみなので、かなり限られます。それに、文字の並びの法則性もはっきりしており、“継子立て暗号”より暗号強度はかなり低いでしょう。なにしろ、鍵数さえわかれば、いくらか集中力を要しますが、目で追っていくだけでも暗号が解けるし、その鍵数の候補も限られている。それでも、今回のクイズのような、狭い同一紙面に問題とヒントと解答を同時に載せたりする場合など、仮初め(かりそめ)の秘め事にはもってこいです。今から思うと、逆説的ですが、やさしいからこそ役に立つ暗号法があるというのも、面白い発見でした。 なお、もちろん、規則を増やして“星形暗号”における鍵数の自由度を増やすことも出来ますが、その繁雑さは、規則の簡潔さという美点を損なってしまいます。 一方、数学ゲーム“継子立て”の説明で、“椅子取りゲーム”になぞらえて書いてある本(文献[04])を読み、「“椅子取りゲーム”じゃ音楽の停め方が乱数と同じだろう」と、なんとなく“椅子取り暗号”が成立すると気付いていたような気もします。そんな中で、“星形暗号”では鍵数の値に制限があるのに“継子立て暗号”ではそれがない、或いは、“星形暗号”で鍵数1の場合は暗号文と平文が同じになる、といった性質を掘り下げていき、また、本格的な暗号強度を求めて、“椅子取り暗号”に至ったのです。 もちろん、乱数表か乱数生成プログラムを用意する必要がありますが、任意長文字列向け転置式暗号としては、これのみ実用に耐える暗号強度を持つのではないでしょうか。 ところで、“星形暗号”を考案した時、最初“多芒星暗号”と名付けようとしました。今でもちょっと未練があります。もう一つ“スピログラフ暗号”という命名案もありました。というのも、動きが“スピログラフ”という文房具風幾何模様作図玩具に似ていると思ったからです。実際、ネットで少し調べてみると、“スピログラフ”の歯数の組み合わせにも、最大公約数の関係があるようです。 この“星形暗号”は、暗号文の末尾と平文の末尾が必ず同じ文字になるのですが、その理由を考えるのも、ちょっと面白いと思います。そんな“星形暗号”の性質について調べていて気付いたのが、既に述べた、“継子立て暗号”にある種の鍵数を与えると暗号にならないという性質です。このように、RSA公開鍵暗号法ほどではないにしろ、この両者には公約数とか公倍数といった整数論の初歩が出てくるので、小学生にもわかる数の性質を実際に使ってみる良い教材にもなるでしょう。 また、愛称“FGP”の‘F’は“フェアリー”(Fairy)の‘F’のつもりでしたが、“ファンシー”(Fancy)か“ファンタジー”(Fantasy)の‘F’と言って良いのかもしれません。というのも、“ファンシー”という言葉について、朝日新聞('11/02/26:Sat) 夕刊3面に「わかるカナ」という面白いコラムがあったからです。 それから、“星形暗号”を考案したとき、“騎士一巡問題”に似たものを感じたので、“騎士一巡暗号”や“魔法陣暗号”というのも考えてみました。でも、“騎士一巡暗号”は文字を並べる盤面の決め方が複雑だし、“魔法陣暗号”は正方形という固定書式です。さらに、両者とも文字を拾う順序の決め方が複雑なのは明らかなので、すぐ投げ出しました。でも、転置式暗号の可能性について、もっと掘り下げられて良い気がします。 それにしても、不思議なのは、最初“継子立て”(ままこだて)というゲーム、特に江戸時代に“継子立て”の一般化が考えられたという話から思いついたので、仮りにこの名をつけて、だんだん掘り下げていったのですが、こういった任意長文字列向け転置式暗号が全く知られていないと思われることです。僕は暗号の専門家ではないので断言できませんが、手近な暗号を扱った幾つかの本にも載っていませんでした。 もし、万一公表されていないとしても、きっと、誰かが既に考えついていて、どこかで使われているでしょうね。こういった軍事がからむような話は、どんな方式の暗号があるかさえ知られていない方が都合が良いでしょうから。 それでも、“「公表の早い者勝ち」かも”というスケベ心も十分にありますが、何よりも、このように、小学生にも分かり、楽しく使え、しかも数の不思議な性質を体感するのにももってこいの素材でもある、これらの暗号がほとんど知られていないのがあまりに惜しくて、この一文を書いている次第です。 〔“継子立て”の参考文献〕 [01] パズル・クイズル 小城栄 カッパ・ブックス 光文社 p.131 [02] パズルで遊ぼう 岡田光雄 講談社現代新書 690 pp.159-164 [03] 数学トリック 樺旦純 三笠書房 pp.179-183 [04] 頭がよくなる 数学パズル 逢沢明 PHP文庫 p.135 [05] 読むだけで頭がよくなる 数のパズル 仲田紀夫 三笠書房 王様文庫 p.215 (旧書名) どこから読んでも頭がよくなる 数学パズル [06] 新数学事典 一松信(編集代表) 大阪書籍 この本の、関孝和が“継子立て”を一般化した話を読まなければ、 “継子立て暗号”を考えつかなかったでしょう(後に改訂版あり) [07] C言語によるアルゴリズム事典 奥村晴彦 技術評論社 この本にも“継子立て”が載っているのをうろ覚えしていたが、 その一般化の話も載っていたので、無意識に影響されたかも [08] 数のパズル読本 秋山久義 新紀元社 (図書館) 〔暗号の参考文献〕 (複数の暗号を扱っている) [10] 暗号 長田順行 教養文庫 1134 社会思想社 初版はダイヤモンド社だが、増補加筆されている [11] 暗号と推理小説 長田順行 教養文庫 1176 社会思想社 [12] 暗号解読(上)(下) サイモン・シン 著 青木薫 訳 新潮文庫 [13] 暗号戦争 デイヴィット・カーン 著 秦&関野 訳 早川文庫 NF17 [14] 暗号攻防史 ルドルフ・キッペンハーン 文春文庫 [15] 暗号の科学 熊谷直樹 すばる社 '07 (図書館) [16] 暗号事典 吉田一彦&友清理士 研究社 '06 (図書館) 文責 : 習志野権兵衛 《覚え書き》 〔重複順列〕(文字列の並べ替えの場合)  まず、普通の順列の復習をする。‘い’‘ろ’‘は’の3種類の文字を並べるのは、まず先頭に‘い’‘ろ’‘は’の3文字のいずれかを置き、次に残りの2種類の文字のいずれかを置いて、最後に残り1文字を置く次の6通りがある。    “いろは”“いはろ”“ろいは”“ろはい”“はいろ”“はろい”  このように、n種類の異なる文字を並べるのは n! (nの階乗)通りある。  しかし、一般の文章では、同じ文字が複数出現するものである。例えば、たった4文字でも“ちかみち”では同じ文字が2回出現している。そこで、“カキのき”(柿の木)という文章の文字の並べ替えを考えてみる。すると、次の 4!=24 通りである。   “カキのき”“カキきの”“カのキき”“カのきキ”“カきキの”“カきのキ”   “キカのき”“キカきの”“キのカき”“キのきカ”“きキカの”“きキのカ”   “のカキき”“のカきキ”“のキカき”“のキきカ”“のきカキ”“のきキカ”   “きカキの”“きカのキ”“きキカの”“きキのカ”“きのカキ”“きのキカ”  ここで、“カキのき”をすべて片仮名で書いたとすると、‘き’と‘キ’は同一視することとなり、両者を並べ替えても同じ文章になる。つまり、全体の24通りを‘キ’が出現している文字数を並べ替えた 2!=2 通りで割った、次の12通りとなる。   “カキノキ”“カキキノ”“カノキキ”   “キカノキ”“キカキノ”“キノカキ”“キノキカ”“キキカノ”“キキノカ”   “ノカキキ”      “ノキカキ”“ノキキカ”  このように、一般にn種類の文字がそれぞれ a1, a2, a3, ... an 回数出現した場合、全体の文字数 (a1+a2+a3+...+an) の階乗をそれぞれの文字毎の階乗で割ったものが全並べ替えの場合の数となる。  重複順列の数 = (a1+a2+a3+...+an)! / (a1!×a2!×a3!×...×an!) 〔英文の取りえる順列の数〕(文字列の並べ替えの場合) ここでは、いろは歌風に1文字種1回だけ登場するものとして英文の取りえる順列の数を考える。 英字26文字の並べ替えの場合(順列の数)は次の通り(27桁の数) 26!=403,291,461,126,605,635,584,000,000 ところで、2**10=1024(3桁)なので、これを表現するには90ビット必要なことがわかる。さらに、普通の英文は、英字だけでなく、空白・ピリオド・コンマは最低限必要だし、ハイフン・引用符・感嘆符・疑問符・括弧・コロンなど様々な記号が混じっている。数式や近頃のメルアドとかが含まれていれば、なおさらである。 35文字種が含まれていれば並べ替えは40桁の数となるし、ましてや普通の文章は同一文字が何度も登場するわけで、16バイト整数(0.3010×128=38.528)でも表現できない。 〔「FGP暗号とその仲間たち」の持つ意味〕  僕が提示した「FGP暗号とその仲間たち」の持つもうひとつの意味をきちんと書き留めておこう。  その意味は、中学生でもわかるぐらい実に簡単な規則で、一般の任意長自由書式文章から、その並べ替え文字列の全てについて、それは重複順列の場合の数だけあるのだが、生成(暗号化)・還元(復号化)の可能性を提示することに成功したことである。と、言い切っても良いのではないか。 〔参考文献補足〕 [01] パズル・クイズル 小城栄 カッパ・ブックス 光文社 p.131 こちらの方が内容が濃い 継子立て pp.131-135 転置式・換字式暗号pp.160-165 現在 光文社知恵の森文庫 継子立て pp.157-160 転置式・換字式暗号pp.184-190 [17] C言語によるはじめてのアルゴリズム入門 (Java言語版, VB言語版もある) 河西朝雄 技術評論社 階乗の値はこの本を参考にした 〔“スキュタレー暗号”について〕 古代ギリシャのスパルタで使われたスキュタレー暗号や、シーザー暗号は、文献[18]によると、文献[20]で触れられているらしい [18] 暗号 辻井重男 講談社選書メチエ 73 現在、講談社学術文庫になっています [19] 暗号と情報社会 辻井重男 文春新書 [20] プルターク英雄伝 プルタルコス 著 岩波文庫 [21] ウェブ時代の暗号 熊谷直樹 筑摩新書 696 [22] トコトンやさしい暗号の本 今井秀樹(監修) B&Tブックス 日刊工業新聞社 “スキュタレー暗号”について触れられている書籍と頁数を示す 文献[10]pp.224-226, [18]pp.17-20, [19](頁数不明), [15](索引参照), [16](索引参照), [21]pp.39,45-46, [22]pp.10-11 〔“星形暗号”と“継子立て暗号”の冗長〕 ひょっとしたら、“星形暗号”で、鍵数kが全文の文字数nと互いに素な数でない時、つまり最大公約数がより大きい自然数の場合は、拾わない文字を冗長と見るのも一つの方法かもしれない。同様に、“継子立て暗号”は、鍵数の解読を難解にするには、先頭と末尾にある程度の長さで冗長を入れた方が良いのかもしれない。 〔“継子立て暗号”の例外〕 平文全7文字 鍵数=5041 暗号文 : いろはにほへと → 解読文 : いろはにほへと 注意 : 鍵数 = 7!+1 = 7×6×5×4×3×2×1+1 = 5041 もしくは 鍵数 = LCM_ALL(7)+1 = 7×5×4×3+1 = 421 鍵数kについて。素因数分解したとき、平文の全文字数nから、それより5つ小さい数までのうち、連続した3つが無いように注意すべきかもしれない。 〔“継子立て暗号”と“椅子取り暗号”の違い〕 本文で使った第1案以外に2案あったので、お好みのをお使い下さい (第2案) 前項“継子立て暗号”との違いは、文字の数え挙げ方が固定長でなく不定長であることと、鍵数kn に従って数え挙げた後拾うのは kn番目ではなくその次なので、それゆえ鍵数の要素に0を許すということです。 (円周率πとか簡単な数表が使えます) (第3案) 前項“継子立て暗号”との違いは、文字の数え挙げ方が固定長でなく不定長であることと、鍵数kn に従い1, 2, 3, … knと数え挙げ kn番目ではなくその次を拾うので、鍵数の要素に0を許すということです。 (円周率πとか簡単な数表が使えます) 〔“騎士一巡暗号”と“魔法陣暗号”について〕 “騎士一巡暗号”=文字列を長方形かなるべく正方形に近い形におき、騎士一巡問題と同じように文字を拾っていけば、解読文(平文)が得られる暗号 “魔法陣暗号”=魔法陣の数の順番に文字を拾っていけば、解読文(平文)が得られる暗号 〔スピログラフが描く図形について〕 外擺線, 外サイクロイド(epicycloid) → 特殊 : カージオイド(cardioid), ネフロイド(nephroid) 内擺線, 内サイクロイド(hypocycloid) → 特殊 : アステロイド(asteroid) 外トロコイド(epitrochoid) 内トロコイド(hypotrochoid) → 文房具風幾何模様作図玩具 : スピログラフ(spirograph) ところで、上記文章を書き終えて気付いたのだが、 “スピログラフ”は登録商標?それなら暗号名にふさわしくないね 〔FGP命名の由来について〕 もちろん、フェアリー・グッド・プライバシー(FGP)とは、プリティ・グッド・プライバシー(PGP)のもじりです。先頭の文字も‘F’なので‘P’より‘A’, ‘B’, ‘C’に近い。日本語では、“簡便暗号”と言うべきかもしれない。 〔朝日新聞「わかるカナ」欄の内容〕 ◎ 朝日新聞('11/02/26:Sat) 夕刊3面「わかるカナ」欄 ファンシー fancy 駅ビルやショッピングセンターによくある、10代、20代向けの可愛らしい小物やキャラクター商品を売る店は、しばしばファンシーショップと呼ばれる。これは和製英語で、「夢を売る店」と言いたいわけなのだろう。 fancyは「空想」「想像」の意で、たしかに一種の夢であるには違いないのだが、そこには「思いつき」「気まぐれ」のニュアンスが抜きがたく付きまとう。つまり夢は夢でも、少々薄っぺらで思いつき的な夢なのである。 ファンシーショップで売られている小物はファンシー・グッズと呼ばれる。こちらにはちゃんと対応する英語 fancy goods があるが、これもまた、ほのぼのとした夢を与えてくれるスヌーピー便箋やムーミン筆箱などではなく、ちょっと変わった小物、装身具の類を意味するのである。 fancyの類語fantasyは総じて、途方もない、好ましい夢を表す。カタカナ語のファンタジーは『ナルニア国物語』『指輪物語』のような幻想物語を指すが、精神分析学、心理学でいう幻想、妄想も、英語ではやはりfancy、fantasyなのである。ファンシーやファンタジーが本来、夢や気まぐれが確信に変わった時の危うさを秘めた語であることをわきまえておくのも無駄ではあるまい。(東大大学院教授・井上健)